2人の若手ヴァイオリニストによるブラームスの協奏曲/ユリア・フィッシャー、クライツベルク&ネーデルラント・フィル;マキシム・ヴェンゲーロフ、バレンボイム&シカゴ響

“若手の”という形容詞をお題に付けましたが、あくまで録音当時は20歳代前半だったという意味合いですので、ご了承のほどを(笑)。

4日後に迫った京響の567回定期ですが、ほとんど神尾効果なのでしょうかチケットが早々に完売したとか。間もなく27歳になる大阪出身のヴァイオリニストの神尾真由子さん、10代の頃から神童ぶりは小耳に挟んではいましたが、実は私はまだ彼女の演奏を1度も聴いたことがありません(演奏会は機会を逃しっ放しでCDは再販制に固執する旧態依然の日本の音楽業界が大嫌いで国内盤を買おうなんて余程のことがないかぎり考えもしないし)。

で、今回彼女が客演して尾高さんの指揮のもとでブラームスのヴァイオリン・コンチェルトを演奏する予定なわけですが、この曲、日頃好き好んで聴いてるわけでもないので、記憶を戻す意味合いもあってNMLのリストを漁っていたのですが、メニューインとかオイストラフとかハイフェッツとかいろいろある中で、どうせなら比較的新しい録音で今の神尾さんと同年代の人が弾いたのを・・・と思ってチョイスしてみたのがユリア・フィッシャー盤とヴェンゲーロフ盤。

 


 

まずはユリア・フィッシャーが23歳の時にPentaTone[http://www.pentatonemusic.com/]レーベルに録音したものから。

 

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
 /ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)、クライツベルク&ネーデルラント・フィル
【PentaTone】[Hybrid SACD]

ヨハネス・ブラームス
・ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
・ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102

ヴァイオリン:ユリア・フィッシャー
チェロ:ダニエル・ミュラー=ショット
指揮:ヤコフ・クライツベルク
管弦楽:ネーデルラント・フィルハーモニー管弦楽団

録音時期:2006年12月(DSDレコーディング)
録音場所:アムステルダム、ブールス・ファン・ベルラーヘ(旧アムステルダム証券取引所)、ヤクルト・ザール

http://ml.naxos.jp/album/PTC5186066

Ptc5186066

 

まずはヴァイオリン・コンチェルトの方から。第1楽章カデンツァと第2楽章での艶のある音色でゆったりした旋律を清らかに、且つ味わい深く奏でる美しさを感じるデリケートな演奏にも惚れぼれするのですが、終楽章でガラリと雰囲気を変えてキレのあるリズム感で(力強いステップでマラソンするが如く)颯爽と駆け抜ける様は聴いていても自然と心が高揚してきて聴き終えた後の爽快感がまたなんともたまらないです(カルロス・クライバーによる2番シンフォニーの終楽章に少し似てると言えば想像しやすいでしょうか)。

ドッペルコンチェルトも全体的に淡い叙情性を湛えた好演で、こちらも終楽章がエキサイティングな力演で締めくくられています。オケはいいとしてもチェロよりもヴァイオリンが光って見えるのは・・・まぁ仕方ないですかね(苦笑)。両曲とも録音の良さに定評のあるPentaToneによるレコーディングなので、ぜひともSACDの音質で聴いてみたいですね。

伴奏を務めるオケは日本ではあまり知られていないネーデルラント・フィル(和訳でオランダ・フィルとされることもあります→http://www.orkest.nl/)ですが、同じアムステルダムにあるコンセルトヘボウと比べるのはさすがに気の毒ですが、当時シェフを務めていたヤコフ・クライツベルク(一昨年癌で逝去されたのがとても惜しまれます)のタクトのもとで実に堅実な演奏でもってソリストを引き立たせるように上手く支えています。フィッシャーはクライツベルク&ネーデルラント・フィルと組んで2000年代半ばにPentaToneレーベルに何枚か録音を残しているせいもあるのでしょう、ソリストとオケの呼吸がよく合っていて互いに巧くブレンドし合っているような印象を受けます。フィッシャーのヴァイオリンの、品の良さを保ちつつ時折見せる自由奔放さにも、オケがしっかり着いていってる辺りはコンビネーションの良さでしょうかね。

クライツベルクが亡くなり、フィッシャーもDeccaに強奪移籍したのがとても残念ですが、PentaToneとの関係が切れたわけではないようなので、昔の気風はどこへやらで音楽企業としての理念を失った感のあるユニバーサルミュージック系から下手に出すよりも、少数精鋭ながらも録音技術スタッフがしっかりしていてクラシックレーベルとしての矜持と良心を持ち続けているPentaToneでこれからも新譜をリリースしてほしいと、しとらす的には願ってます。

 


 

そして一方、こちらのヴェンゲーロフ盤も彼が23歳の時にライヴ録音した演奏です。

 

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲
 /マキシム・ヴェンゲーロフ(Vn)、バレンボイム&シカゴ響、マズア&ニューヨーク・フィル
【Teldec】

ヨハネス・ブラームス
・ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
アントニン・ドヴォルザーク
・ヴァイオリン協奏曲 イ短調 Op.53, B.108

ヴァイオリン:マキシム・ヴェンゲーロフ
指揮:ダニエル・バレンボイム[ブラームス]、クルト・マズア[ドヴォルザーク]
管弦楽:シカゴ交響楽団[ブラームス]、ニューヨーク・フィルハーモニック[ドヴォルザーク]

録音時期:1997年(※いずれもライヴ録音)

http://ml.naxos.jp/album/825646080663

※上2曲のカップリングでリリースされていた廉価盤は現在では廃盤のようです。元々はそれぞれ別の曲とのカップリングでリリースされていたようで、現在ではそちらのオリジナルの方が廉価盤として再プレスされているみたいですね(下の画像をクリックするとそれぞれAmazonの商品ページにリンクします)。
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まずブラームスの方。さすがバレンボイムとシカゴ響のコンビだけあって、バックの演奏がとても腰のすわったドッシリした厚みあるサウンドなのですが(出しゃばった感じがしないのは自身が最高級のピアニストであるバレンボイムならではでしょうか)、ヴェンゲーロフのソロが全然力負けしていないのはさすがとしか言い様がないですね。別にゴリ押しの力任せでギコギコやってるわけでは決してなく、卓越した技巧とコントロールの絶妙さで幅と奥行きのある豊かな音楽を顕現したような演奏です。そして終楽章はどう形容したらいいのでしょう・・・隷書体で揮毫された大寺院の山門の扁額をどこか連想させるような気がします(我ながら変な言い回しだとは思いますが・苦笑)。

ドヴォルザークに関しても、滋味ある美しい叙情性を醸し出しながらもスケールの大きな、そしてライヴ特有の緊張感をはらんだ熱演になっていると思います。冴え渡るテクニックのキレの良さに加えて個性的かつ豊かな表現性の多彩さには、とても20代前半の人間が演奏したとは思えませんね。