京都市交響楽団 第580回定期演奏会(指揮:ジェームズ・ジャッド)

今回の客演指揮者はジェームズ・ジャッドさん。1949年10月30日生まれ、イングランドのハートフォードシャー州のご出身。1999年から2007年にかけてニュージーランド交響楽団[http://www.nzso.co.nz/]の音楽監督を務め、ナクソス・レーベルでの多数のレコーディングを通じて世界に名を知らしめる精力的な活動を行ってきたことは存じられていることかと思います。ナクソスでの録音はエルガーやヴォーン=ウィリアムズなどの英国音楽などの他、ダグラス・リルバーンやライル・クレスウェルといったニュージーランドの作曲家の作品も採り上げていますね。

さて、母国イングランド代表の試合があるというので早起きしてTV観戦してたのに・・・と型通りの挨拶の後にジョークのつもりかボヤキなのかわからない言い様でワールドカップの話題に触れたマエストロ(イングランド相手に2ゴールあげたのがよりによってプレミアリーグ得点王でリヴァプール所属のルイス・スアレスでしたから愚痴りたくもなるか・苦笑)、その後に行われた日本の試合も見てくださったそうですが、せっかくなのにすいませんでした・・・あんなしょーもない戦いぶりでギリシャ相手にスコアレスドローでしたし。

閑話休題。

プレトークではモーツァルトとエルガーについてのお話。残された写真からも典型的英国紳士としてイメージされがちなエルガーにもマーラーのような情熱的な部分もあって複雑な性格の持ち主だったこと、京響がエルガーの音楽にある繊細さをよく理解していて、その繊細さを共有できて嬉しいみたいなことを仰ってました。話しぶりからして気さくで気配り上手な紳士という印象、いわゆる‘英国紳士’とは違うけど。

 

京都市交響楽団 第580回定期演奏会
2014年6月20日(金)19時開演@京都コンサートホール

◆W.A.モーツァルト 交響曲第31番ニ長調 K.297(300a) 『パリ』
◆N.パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 Op.6
 (ソリスト・アンコール)
 ◇J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004〜第3楽章:サラバンド
 ◇E−A.イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番イ短調 Op.27-2〜第1楽章:妄執(Obsession)
(休憩)
◆E.エルガー 独創主題による変奏曲『エニグマ』 Op.36

指揮:ジェームズ・ジャッド
ヴァイオリン:クリストフ・バラーティ
コンサートマスター:泉原隆志

 

終わってみれば、一にも二にもエニグマ変奏曲がダントツで素晴らしかったこと。京響から「これぞエルガー・サウンド」という音彩が出てきたのは7年前のエルガー・イヤー(生誕150周年)の秋に大友さんが1番と2番のシンフォニーをそれぞれメインで採り上げて以来、実に久しぶり。しかもスケールアップして帰って来たって感じ。鳴らすところは目一杯響かせてるんだけど格調の高さを損なうことが少しもなく、各ヴァリエーションをそれぞれ特徴を引き出しつつも途切れさせることなく上手く繋げているので、音楽全体が起伏に富みつつも川の流れの如く自然な印象を与えていて、とても好感が持てる演奏でした。プレトークで独自のエルガー観を熱心に語っていただけはありましたね。

それだけに、前半のコンチェルトもパガニーニでなくエルガーで聴きたかったというのが結果からの逆算で痛感させられました。ソリストがパガニーニの演奏で売り出した人のようなのでプロモーションの都合でこの選曲になったのでしょうけど、パガニーニ好きのファンには申し訳ないですが、私にとって彼の作品は何度聴いても‘ツマンナイ’の棚に分類されるものでしかないし、ジャッドさんの指揮もここでは裏方に徹してるという程度でしかなく、バラーティは確かに技巧の高い人ではあったけど、温度差の違いは微妙にあったかな?という印象でした。アンコールで弾いたバッハとイザイが良かっただけに、年齢が20歳ソコソコならいざ知らず30代半ばなのだから、コンチェルトの選曲も今までの彼のキャリアとは毛並みの違うものに挑戦してもよかったように思いました。今日のプログラムでならエルガーが最適ですが(ただしエルガーのヴァイオリン協奏曲は時間が長いので前半はこれ1曲ってことになりそうですが)、他にもヴァイオリン協奏曲を書いているイギリスの作曲家はいますし、アイルランドの民族音楽があちこちに散りばめられているアーネスト・ジョン・モーランのヴァイオリン協奏曲も日本ではほとんど知られていませんが穏やかな美しさの光る音楽でユニークなチョイスかもしれません。ただしバカテクを披露するのには向いてないですけど(苦笑)。

前半最初のモーツァルトはごくごくオーソドックスというか、英国系の指揮者が振ったらだいたいこんな感じになるよね?っていうところでしたが、オペラで『ドン・ジョヴァンニ』や『フィガロの結婚』をレパートリーにしてることもあってか、決して単調にならなかったあたりはさすがでした。

ともあれ、今回の定期はあのエニグマ変奏曲を聴けただけで元が充分すぎるほど取れました。広上体制になってから定期で英国モノをしっかりやる頻度が少なくなってしまった一面があるので、エニグマ変奏曲で京響からあのサウンドを引き出してくれたジャッドさんには再客演をぜひとも願いたいですね。

 


 

追伸:どうやら完売連続記録は途絶えてしまったみたいですが、平日の夜の公演で残りあとわずかのところまでは売れたのだから気にするほどでもないでしょうし、記録はどのみち来月で途切れそうだから諦めつくっしょ?w (次回7月18日は大阪のフェスでの大フィル定期、ザ・シンフォニーでの関フィル定期と同じ日でバッティングするので)

 

 



京都市交響楽団 第573回定期演奏会(指揮:ジョン・アクセルロッド)

日本でのデビューが4年前の京響525回定期だった米国人指揮者のジョン・アクセルロッド[http://www.johnaxelrod.com/]さんは京響と京都を殊の外お気に入ったようで、社交辞令的な挨拶ではじまったプレトークは半分くらい身の上話だったような(笑)。経歴では1988年にハーヴァード大学を卒業したのと指揮はバーンスタインとイリヤ・ムーシンから学んだとあるだけなのですが、彼いわく人生が音楽一本道だったわけではなく、指揮者になる前はカリフォルニアワインのバイヤーだったというビジネス歴があったそうです。そのビジネスで車を飛ばしている最中にふと『トリスタンとイゾルデ』が頭の中をよぎり、それから車中でかけていたラジオでも『トリスタンとイゾルデ』がオンエアされたことで、これは・・・と思って(キリスト教風に言えば神の啓示というところなのでしょうか)スッパリ転職を決断したそうです。ルツェルン交響楽団[http://www.sinfonieorchester.ch/]ルツェルン歌劇場[http://www.luzernertheater.ch/](ルツェルン響は劇場の座付きオケ兼業)に5年間ポストを持っていたくらいですので、少なくともピアノの腕前はプロ級だと思われます。そうでなければオペラハウスでの仕事は務まりませんし。ハーヴァードでの専攻がビジネス系なのか芸術系なのかわかりませんが、少なくとも幼少の頃から何かしら音楽教育は受けていたでしょうし、事情があって一旦は音楽の道は諦めてビジネスマンになったけど、やっぱり音楽やりたいってことで戻ってきたんでしょうね。

変わった経歴の指揮者って探せば結構出てくるもので、昔の著名人ではエルネスト・アンセルメがソルボンヌ大学とパリ大学で数学を学んで別の大学で数学教授として教鞭をとってたことがありますし、カルロス・クライバーは指揮者になりたかったのを父のエーリッヒに反対されてチューリッヒ工科大学に入学したエピソードがありますし、精神医学と考古学で博士号を取ったジュゼッペ・シノーポリ云々。まぁそれでも指揮者で飯を食っていくなんて実力と運がないと不可能なわけで、そういう意味ではワインのバイヤー→クラシック音楽の指揮者に転職して今は一定の成功を収めているアクセルロッドさんの例は古き良きアメリカン・サクセスストーリーがまだ多彩な方向性で可能だった頃の稀有な名残かなという気がします。前世紀末以降でのアメリカでは経済と社会事情がそれを許さないでしょうから(ウォール街・シリコンバレー・ハリウッドで富を築くことはできても他の道、ましてや芸術方面は?)。

閑話休題。

前回の客演時には私は後半券で聴いただけでしたので、リズム感が良かったのと豊かな色彩感を京響から引き出していた印象が残っている程度でした。それに前回のプログラムが全体的にややラテン系だったのに対して、今回は一転してベートーヴェンとワーグナーというドイツもの。ドイツ語圏で仕事していた経験というものが見られるかどうかが京都コンサートホールに行く前の個人的な注目点でした。

 

京都市交響楽団 第573回定期演奏会
2013年10月20日(日)14時30分開演@京都コンサートホール

◆L.v.ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61
 (ヴァイオリンソロ・アンコール)
 ◇E.イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ Op.27〜第1番 ト短調:第1楽章「グラーヴェ」
 ◇E.イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ Op.27〜第2番 イ短調:第4楽章「復讐の女神たち」
(休憩)
◆R.ワーグナー 楽劇『ワルキューレ』〜第3幕・序奏「ワルキューレの騎行」
◆R.ワーグナー 楽劇『神々の黄昏』〜第3幕・「ジークフリートの死と葬送行進曲」
◆R.ワーグナー 楽劇『トリスタンとイゾルデ』〜第1幕前奏曲、イゾルデの愛と死

指揮:ジョン・アクセルロッド
ヴァイオリン:アレクサンドラ・スム
コンサートマスター:渡邊 穣

 

前半のヴァイオリン協奏曲、ベートーヴェンの中期の作にあたるこの曲は演奏時間がだいたい40分超、叙情的な一面を所々で見せつつもトータルではかなりシンフォニックな構造をうかがわせる作品だと私は思います。ソリストのアレクサンドラ・スム[https://www.facebook.com/AlexandraSoumm]さんは遠目からはルックスそこそこで欧州人女性でもわりと上背あるグラマラスな方かなとしかわからなかったのですが、彼女が手にする楽器ガダニーニから出てくる音は・・・鋼の輝きと強さ?・・・たくましいとか太ましいとか男性的とかいった類とは違った、美しさと音の芯、高音では細くも鋭利な美しさ、低音では濁りのない粘り強さ・・・そういったものがあったように聴こえました。変な例えですけどアニメ・漫画やライトノベルで見かけそうな‘陽’の性格の肉食系ヒロイン(『カンピオーネ!』のエリカや恵那とか)みたいな感じ。なので遅めのテンポでもダレなかったし、ソリストを支えるオケ側も彼女に合わせるようにシンフォニックでスケール感たっぷりの伴奏でした。ドイツ的重厚長大とはまた違った趣きの音楽は後から思えばマリン・オールソップ&ロンドン・フィルのブラームス交響曲全集の演奏をどこか連想させるところがあって、米国人が生真面目かつ楷書風にベートーヴェンやブラームスのシンフォニーやったらああいった感じになるのかな、と朧気に考えたりもしました(なぜか2人ともバーンスタインに師事した共通項があるw)。

熱烈な拍手に応えてスムさんがアンコールに2曲も演奏したのは、いずれもイザイの無伴奏ソナタから。ぶっちゃけこちらの方が本領発揮(爆)というか水を得た魚のようにバリテクを存分に見せる演奏でした。重音が多用されるという「復讐の女神たち」ではどこをどのようにやったらそんな音出せるのさ?!と内心驚かされたほどでした。

後半、メモリアルイヤーを意識してでしょう、ワーグナー尽くし。どうせだったらどこか1幕分だけでいいから演奏会形式でやってほしいと個人的には思うところでしたが、演奏する側よりも聴衆の側に問題を抱える(辛抱弱いジジババ連中が会員だったりする・苦笑)京響定期では現状まだ難しいかな・・・。それはさておき、まずは『ニーベルングの指輪』から2曲を採って演奏したわけですが、ホルン8本とかホルン4本+ワーグナーチューバ4本がステージの一角を占めているのは視覚だけでも相当な迫力がありましたね。当然ながらエキストラが何人も入っての演奏でしたけど、そこは関西随一のブラスセクションを誇る京響だけあって、強奏時でも響きが濁らないのはさすがでしたね。「ワルキューレの騎行」は単独で演奏される機会も多くスペクタクルにやろうと思えばいくらでも簡単にできちゃう曲ですが、アクセルロッドさんの指揮はメリハリをしっかりつけつつも、これらがあくまで『ニーベルングの指輪』という壮大なムジークドラマの極々一部に過ぎない、大仰には演奏しないスタンスで一貫してるようで、そうした方向性にはとても好感が持てました。でも京響ブラスセクションのあの見事な強奏を目にすると、どうせなら「ジークフリートのラインへの旅」もやってほしかったな、と欲をかいたのも事実(笑)。

そしてラストの、アクセルロッドさんの運命を変えたという『トリスタンとイゾルデ』ですが・・・「イゾルデの愛と死」での弦セクションの美しい調べ、全てを浄化するようなトーン・・・ヒロインはハッピーエンドルートじゃなければ嫌だっていう考えがミエミエで透けて見えるような印象でした。もちろん『トリスタンとイゾルデ』でそういった解釈でのイゾルデ像は充分許容範囲ですし、アメリカンっぽくもあるそうした意向をサウンドとして体現してみせた京響のフレキシブルな能力の高さの一端が現れた演奏でもありましたね。

4年前の客演時の指揮姿までは思い出せないのですが、今回に限っては指揮棒を持たないで終始振ってましたね。今はミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団[http://www.laverdi.org/](かつてリッカルド・シャイーが音楽監督やってて今は桂冠指揮者、現在の音楽監督は1973年生まれの中国人女性指揮者のシエン・ジャン―Xian Zhang、中国名:张弦―)の首席指揮者の任にあるアクセルロッドさんですが、また京響に客演の機会があるのでしたら、今度は大曲を引っさげて来ていただきたいですね(これまで2回とも時間短めの曲が多いプログラムだったので)。なんだったら師匠の書いたミサ曲でも(をいマテ)。

 


 

ところで、指揮者のジョン・アクセルロッドさんとヴァイオリニストのアレクサンドラ・スムさんはそれぞれ欧州のレーベルからいくつかCDをリリースされてますので、よろしければどうぞ。

 

ブルッフ、パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲/アレクサンドラ・スム(ヴァイオリン)、他【Claves】

マックス・ブルッフ
・ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 Op.26
ニコロ・パガニーニ
・ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 Op.6

ヴァイオリン:アレクサンドラ・スム
指揮:ゲオルク・マルク
管弦楽:ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団

※2008年発売

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グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ全集/アレクサンドラ・スム(ヴァイオリン)【Claves】

エドヴァルド・グリーグ
・ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ヘ長調 Op.8
・ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ト長調 Op.13
・ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 Op.45

ヴァイオリン:アレクサンドラ・スム
ピアノ:ダヴィッド・カドゥーシュ

※2010年発売

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グレツキ:交響曲第3番/ジョン・アクセルロッド&デンマーク国立交響楽団【SONY】

ヘンリク・グレツキ
・交響曲第3番『悲しみの歌の交響曲』 Op.36

指揮:ジョン・アクセルロッド
管弦楽:デンマーク国立交響楽団(DR放送交響楽団)
ソプラノ:イザベル・ベイラクダリアン

※2012年発売

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ブラームス「Beloved」/ジョン・アクセルロッド&ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響 (2CD)【TELARC】

ヨハネス・ブラームス
・交響曲第4番 ホ短調 op.98
・交響曲第2番 ニ長調 op.73
他、10曲の歌曲とのコンピレーション・アルバム

指揮:ジョン・アクセルロッド
管弦楽:ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団

※2013年9月24日発売

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